令和4年度の住宅市場動向調査では、家を購入する平均年齢は戸建てで37.7歳、マンションで39.9歳です。仮に40歳で住宅ローンを35年で組むとすると、ローンの完済は75歳となり、65歳で定年退職した場合、退職後でも10年返済が続くことになります。
退職金を利用してローンを完済しようと考える方も多いのですが、それは最善の方法でしょうか。
退職金の特性を考えると、金額が減ったり、そもそももらえなくなる可能性もあります。
従って、そのような退職金に頼らずにローンを返済していくことを考えておくことはライフプランの上でも大切です。
ここでは退職金以外で返済していく方法をまとめてみましたので、ご自身はどの方法が採用できるだろうか是非考えてみて頂ければと思います。
借り換え
低金利が続く日本においては、借り換えにより返済の負担を抑えることが可能となるかもしれません。ただ、必ず効果があるわけではありません。では、どうやって判断すれば良いのでしょうか。実はメリットの有無を判断する目安があります。
① 借り換えによって1%以上金利が下がる
② ローンの残高が1000万円以上残っている
③ 返済期間が10年以上残っている
これらの項目が当てはまる場合、借り換えを検討してみることがお勧めです。
住み替え
ライフスタイルが変わると、必要とされる住環境も変わってきます。代表的な例を挙げると、お子様が誕生されてお住まいが手狭になってきたとき。それからお子様が1人で住むようになり、自宅から離れる時です。
今後かかってくる税金やメンテナンス費用などのランニングコストを考えると、スケールダウンするのも一考の余地があります。現在の住居を売却して得た資金で、コンパクトな住まいに住み替えをおこなうことで、住宅ローンを完済する、あるいは返済の負担を減らすことができるかもしれません。
再雇用など引き続き働く
当たり前かもしれませんが、引き続きしっかりと安定的な収入を確保し、そのうちから着実に返していくことです。継続的にお金が入ってくる安心感、社会とのつながり、健康維持など金銭面だけでは測れないメリットもあります。
国や企業としてもシニア層の技術や経験などに価値を見出し、活用していく潮流ができていますので、その可能性を考えてみることは大切です。
リバースモーゲージの活用
リバースモーゲージとは住まいを担保にして借り入れをおこない、将来借入人が死亡した時に住まいを売却して借入金を返済する仕組みです。毎月の返済は借入金の利息部分のみになり、支払い負担は大きく減ります。50~60代以上の比較的高齢者向けのサービスです。
メリットは住まいを担保にしているだけなので、そのまま生活することができます。借入金は生活費やリフォーム代、あるいは趣味などに使うことが可能です。
注意点としては資金使途が限定されている点です。借り入れる金融機関によって異なりますが、借入金を事業や投資目的に利用することはできないことが多いです。また、住まいの担保価値が下がると借入可能額が減少します。そして借入は変動金利なので、金利が上昇すると利子の支払い負担が増加するという金利変動リスクを負うことになります。
リースバックの活用
リースバックとは現在の住まいをリースバック業者に売却して、同じ住まいに賃貸で再度入居することです。日々の生活に大きな影響を与えることなく住宅ローン対策が可能です。
借り入れをおこなうリバースモーゲージとは異なり、リースバックは自宅を売却して資金化をおこないます。売却代金は使途が自由ですから、住宅ローン返済のほか事業や投資目的にも利用できます。
売却後の自宅は借家であり何の権限も残りません。一方で固定資産税やマンションの管理費・修繕費の支払いがなくなるというメリットもあります。
ところで、そもそも住宅ローンはなるだけ早く返した方が良いのでしょうか。
もちろん金利を含めた総支払額が減ることや、心理的な安心感を得られることなどから早期に返済するメリットはもちろん大いにあります。では、一方でデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
老後資金の余裕がなくなる
退職金によって住宅ローン完済をすると、その分の手元資金は減りますので自己資金の余裕がなくなります。自己資金は事故やケガなど不慮の出費があった時に使用することもありますので、余裕があった方が望ましいです。
身体的な障害は年齢と共に可能性が高まるため、介護費用などの準備も考えたいところです。また年金額の変動や物価の上昇を考えると、やはり退職金は老後準備として大事な部分となりそうです。
団信がなくなる
住宅ローンを契約する時に加入する団体信用生命保険(団信)には、金融機関の保険料負担で生命保険に入っているのと同じ効果が得られます。住宅ローンを一括返済することで団信は解除されますので、生命保険に入りなおすかどうか検討する必要があります。
これらは今後において皆さんの負担や不安の増大には繋がらないでしょうか。
定年退職後のローン返済は不確実な要素も多いので、あらかじめいくつかの選択肢を用意しておくのが良いでしょう。退職金で返すことも可能ですが、手元に自己資金を確保できると余裕のある生活が送れます。仮に退職金なしという状況になっても返済できる方法をあらかじめ知っておけば、ゆとりのあるライフプランニングにつながります。
住宅ローンの返済は長期的な視点に立ち、具体的な資金計画を立てておこなっていくものです。今回ご紹介した返済方法も参考にして、最も自分に合った住宅ローン返済をおこないましょう。
中井 康寛
CFP®、証券外務員Ⅰ種、証券アナリスト、国家資格キャリアコンサルタント
CFP、証券アナリストにとどまらず、キャリアやITに関しての資格も取得し顧客からの様々な相談に幅広く対応している。 プライベートでは、地方の持続可能な振興やその取り組みに積極的に関わり、日本各所を訪れている。
メッセージ
「知識のアップデート」「きめ細かなヒアリング」「分かりやすいご説明」を特に大切にしながら日々の業務にあたっています。ライフプランの作成やご相談を通じてみなさんの行動と変化のきっかけとなれれば幸いです。