「マイホームを新築するので、自宅でお店を開業したい」
「店舗ビジネスをしたいけれど、家賃を払うのは勿体無い」
店舗付き住宅は、住宅と店舗や事務所を同時に取得できる魅力的な物件です。
住宅ローンを適用できて、かつ店舗や事務所での事業収入で住宅ローンの返済を行える店舗付き住宅が注目されています。
その一方で、店舗付き住宅で住宅ローンを適用する条件は?適用できない場合はどうしたらいい?住宅ローンを適用する際に注意点はある?などの疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
この記事では、自宅を取得しつつ、独立開業や店舗経営を考える方におすすめしたい店舗付き住宅について、ご説明します。
店舗付き住宅とは?
店舗付き住宅とは、自分で商売や会社を経営している方など向けに、ご自宅の一部を店舗
や事務所などとした一戸建て住宅です。
「自宅と店舗を併せ持つ建物」のことで店舗併用住宅とも言われます。似たような言葉で店舗兼用住宅というものもあります。店舗兼用住宅は、店舗併用住宅のうち、住宅部分と非住宅部分とが内部で往来できる場合をいいます。
事業などを営んでいる人、あるいはこれから営みたいと考えている方にとって店舗付き住宅は、住宅を新築する際の魅力的な選択肢の1つです。
店舗兼用住宅との違い
店舗併用住宅と店舗兼用住宅の大きな違いは、「構造」と「建築基準法」の2つです。構造の違い店舗併用住宅は、住宅と一緒に、店舗などの用途に供する非住宅部分を設けたものです。店舗兼用住宅は、店舗併用住宅のうち、住宅部分と非住宅部分が構造的にも機能的にも一体となっていて、用途的に分離しがたいものをいいます。
第一種低層住居専用地域は、低層住宅のための地域であり、基本的に店舗の建築は難しい地域です。店舗併用住宅は、第一種低層住居専用地域に建てることができませんが、店舗兼用住宅は次の条件を満たしている場合に第一種低層住居専用地域に建てることができます。
① 非住宅部分の延べ面積が、建築物全体の延べ面積(各階の床面積の合計)の 1/2 を超えないこと
② 非住宅部分の床面積の合計が 50 ㎡以下であること
③ 住宅部分と非住宅部分とが内部で往来でき、構造的にも機能的にも一体となっていて用途的 に分離しがたいもの
そして、住宅と兼用できる用途は、以下の1~7のいずれかでなければなりません。
1.事務所(汚物運搬用自動車、危険物運搬用自動車その他これらに類する自動車で国土交通大臣の指定するもののための駐車施設を同一敷地内に設けて業務を運営するものを除く。)
2.日用品の販売を主たる目的とする店舗又は食堂若しくは喫茶店
3.理髪店、美容院、クリーニング取次店、質屋、貸衣装屋、貸本屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
4.洋服店、畳屋、建具屋、自転車店、家庭電気器具店その他これらに類するサービス業を営む店舗(原動機を使用する場合にあたっては、その出力の合計が〇・七五キロワット以下のものに限る。)
5.自家販売のために食品製造業(食品加工業を含む。以下同じ。)を営むパン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋その他これらに類するもの(原動機を使用する場合にあたっては、その出力の合計が〇・七五キロワット以下のものに限る。)
6.学習塾、華道教室、囲碁教室その他これらに類する施設
7.美術品又は工芸品を製作するためのアトリエ又は工房(原動機を使用する場合にあたっては、その出力の合計が〇・七五キロワット以下のものに限る。)
出典:“建築基準法施行令”e-gov 法令検索
建築基準法施行令第 130 条の 3 で定める兼用住宅とは?
店舗付き住宅のメリット
・通勤時間がかからない
・家賃がかからない
・建物全体に住宅ローンを使えることがある
・減価償却費を取れるので節税効果がある
通勤時間がかからない
店舗付き住宅の最大のメリットの一つは、仕事場が住まいと直結しているため、通勤時間を気にすることなく、日々の仕事に取り組める点です。時間を有効利用できるだけでなく、通勤ラッシュや渋滞などのストレスから解放されるでしょう。
家賃がかからない
店舗部分に家賃がかからないことが大きな魅力となります。家賃の代わりに建築費は掛かりますが、店舗を借りることと比較すると、経済的には割安で済むことが多いです。さらに、住居と店舗を一緒に建築することで、基礎や屋根などの工事費を抑えられるため、1棟として建てる方が全体の建築費の面でも有利です。これらの理由から、店舗付き住宅は経済的なメリットが豊富に存在すると言えます。
建物全体に住宅ローンを使えることがある
条件を満たした場合に建物全体に住宅ローンを利用して一本化することができる金融機関もあります。(詳細は「2.店舗付き住宅をおすすめする理由 2.1店舗を住宅ローンで建てられる」で後述します)
減価償却費を取れるので節税効果がある
建物の減価償却費は費用として経費計上できるので節税効果があります(詳細は「2.店舗付き住宅をおすすめする理由 2.3節税効果がある」で後述します)。
店舗付き住宅のデメリットと注意点
・オンとオフの切り替えが難しい
・立地による集客の課題
・近隣への配慮と課題
・一般的に売却までの期間が長くなる可能性がある
・建物全体に住宅ローンを使えないケースもある
オンとオフの切り替えが難しい
出勤する際、移動することで自然と仕事モードになれるという方も多いのではないでしょうか?住居と仕事場が同じ場所の場合、仕事とプライベートの境界が曖昧になることがあります。その境界の設定は個人の意識や自己管理に大きく依存します。住居と仕事場が一緒になると、より自己管理や環境整備が求められますが、しっかりと意識して取り組めば、この課題を克服することは十分可能です。
立地による集客の課題
一般的に立地の条件はビジネスの成功に大きな影響を及ぼします。特に、住宅街や郊外のような人通りが少ない場所では、集客に苦労することがあります。事務所や教室のような業種は比較的立地の影響を受けにくいものの、飲食店や小売店のような業種は、立地が集客に大きく影響します。不利な立地にある店舗は、集客を向上させるために、広告や宣伝活動を強化する必要があります。
近隣への配慮と課題
飲食店などで成功すると、お客様が増加することで騒音や行列の問題が生じることが考えられます。そのため、近隣住民との関係を良好に維持するには、これらの問題への配慮が欠かせません。特に、駐車場の少ない場所での経営では、お客様の駐車違反が交通の障害やトラブルの原因となるリスクが考えられます。これらの問題を適切に管理しないと、近隣住民との関係が悪化し、結果的に店舗経営への悪影響が出るだけでなく、自宅としても住みづらくなることもあるため、早めの対策が非常に重要です。
一般的に売却までの期間が長くなる可能性がある
店舗付き住宅の売却は、普通の戸建てに比べて、一般的に需要が少ない傾向があるため、売却までの期間が長引くことが想定されます。とはいえ、店舗付き物件を求める購入希望者もいるので、完全に需要がないわけではありません。売却をスムーズに進めるための方法の一つとして、店舗部分を住居スペースにリフォームする選択肢も考えられます。店舗付き住宅の売却には特有の課題があるものの、適切な対策を講じればそれらの課題を乗り越えることは十分可能です。
建物全体に住宅ローンを使えないケースもある
一般的に、店舗併用住宅の購入や建築を考える際、住宅ローンだけでなく、事業用ローンを組むことが必要になることがあります。つまり、建物のうち、住宅部分は住宅ローン、店舗部分は事業用ローンというように別々にローンを組むということです。
具体的には、店舗部分の面積が全体の半分以上を占めている場合や、店舗利用を主とする場合などは、住宅ローンの対象外となることが考えられます。
また、金融機関によっては、事業の種類や事業計画に応じて、ローンの適用条件が変わることがあります。そのため、店舗併用住宅の取得を考える際は、ローンの詳細条件や金融機関の提案をしっかりと事前に確認し、計画的な進め方をすることが大切です。(詳細は「2.店舗付き住宅をおすすめする理由 2.1店舗を住宅ローンで建てられる」で後述します)。
店舗付き住宅がおすすめの理由
前述の通り、店舗付き住宅(賃貸併用住宅・賃貸兼用住宅)とは、居住用の住宅部分と、非住宅部分が備わった物件です。この店舗付き住宅をおすすめする理由には、店舗付き住宅ならではの金銭的なメリットが以下のようにあるからです。
・店舗を住宅ローンで建てられる
・住宅ローンの返済を店舗収入でできる
・節税効果がある
店舗を住宅ローンで建てられる
店舗付き住宅の場合、通常は住宅部分に「住宅ローン」、非住宅部分に「事業用ローン」がそれぞれかかるため、二本立てのローンとなります。しかし、特定の条件を満たすことで、一本化した住宅ローンで建物全体を購入・建設することが可能な金融機関も存在します。
住宅ローン一本化のメリット
- 長期・低金利: 住宅ローンは通常、事業用ローンよりも金利が低く、返済期間も長いため、負担が軽減されます。
住宅ローン一本化の条件
- 居住部分の床面積: 建物全体の床面積の1/2以上が住宅部分である必要があります。
- 自己使用: 店舗部分は自分自身の事業で使用する必要があります。テナントに貸し出す形態は不可です。
- 兼用住宅: 店舗部分と住宅部分は建物内で自由に行き来できる必要があります。
これらの条件を満たしている場合、住宅ローン一本化を選択することで、多くの金銭的メリットを享受できる可能性があります。特に、自分自身で店舗を運営する予定がある場合、この点は非常に魅力的でしょう。
住宅ローンの返済を店舗収入でできる
人通りの多い通りに面した敷地であれば、店舗部分を貸し出して、家賃収入を得ることも可能です。家賃収入を住宅ローンの返済に充てられるため、ローンの負担が軽くなります。場合によっては、家賃収入だけでローンの返済をすることも可能です。
通常の居住用の自宅の場合は、住宅ローンの返済は会社などから得た給料のみで支払わなければなりません。もし店舗部分を貸し出す場合、給料の他に店舗の家賃収入が得られるため、ローンの返済はよりスムーズに行うことができるでしょう。
店舗部分を貸し出す場合は、建物全体に住宅ローンを利用することは難しいので、店舗部分は別のローンを組む必要があることに留意が必要です。一般的に、事業用ローンの金利は高いので、手持ち資金がある方は、店舗部分は手持ち資金で建築したほうが、利息を含めた総負担額を抑えられます。
節税効果がある
ローンを組んだ場合、建物の減価償却費を経費にできます。
減価償却費とは、『固定資産の取得にかかった費用の全額をその年の費用とせず、耐用年数に応じて配分しその期に相当する金額を費用に計上する時に使う勘定科目です。減価償却の対象となる固定資産を「減価償却資産」といいます』(出典:freee 経理COMPASS 減価償却とは|「そもそも減価償却って何?」から図入りで分かりやすく)
例えば、1000万円の木造の建物を現金一括払いで建てた場合、実際のお金の出入りとしては建てた時に全額が出ていきますが、会計上は建てた時に全額経費にするのではなく、木造建物の法定耐用年数である22年間に渡って毎年経費として計上していく、ということになります。
建てた年の翌年以降は、実際にお金が出ていくわけではありませんが、会計上は経費として計上できます。これが減価償却です。
ちなみに、店舗併用住宅を含め不動産の場合は、建物のみが減価償却資産となり、土地は対象外です。
このように減価償却費は経費として計上できるので節税効果があります。
店舗付き住宅でローンを組む際の注意点
金融機関には店舗付き住宅であることを事前審査の段階で伝える
住宅ローンを申し込む際、物件が店舗付き住宅であることを金融機関に明確に伝える必要があります。なぜなら、店舗部分の資金提供は通常の住宅ローンとは異なり、事業資金としての融資と判断される場合も多いからです。
事業資金の融資条件は、住宅ローンと異なります。住宅ローンは、個人の収入や返済能力を基に審査が行われ、事業ローンは、事業計画や経営状況などが考慮されます。
金融機関が厳格な審査を行う背景には、金融機関のビジネスモデルが関係しています。彼らは、低い金利で預金を受け入れ、それを高い金利で融資することで利益を上げています。この差額ビジネスは一見すると利益率が高いように見えますが、実際には非常にマージンが薄いものです。そのため、1件の焦げ付きでも、その影響は金融機関の収益に大きく響くことになります。
例えば、預金金利が年0.5%、貸し付け金利が年2.5%、差は2.0%で1000万円を貸し出して、年間でわずか20万円しか利益になりません。
なので、数十件分の利益は1回の貸し付けの失敗で吹き飛ばされてしまうことになります。
金融機関にとって住宅ローンに融資するリスクと事業に融資するリスクは異なるので内容に応じて審査の厳しさが異なるのです。
ですので、建物が店舗付き住宅であることを金融機関に事前に伝えた上で話を進めるようにしましょう。
脱サラの場合は入念な準備が必要
事業実績があると、店舗付き住宅の融資審査は通りやすくなりますが、初めての事業者は審査が厳しくなる可能性が高いです。
前述の通り、金融機関は薄利な商売のため、「貸し倒れの危険性の少ない人にお金を貸したい」と思っています。そのため、金融機関は返済能力を重視します。過去の事業実績はその判断の大きな要因となります。
初めての事業者は、実績がないため判断が難しく、リスクが高いと判断されることが多いでしょう。
逆に、既存の店舗や事務所を持ち、長年事業を続けている場合、店舗付き住宅の融資審査は進めやすくなります。
もしサラリーマンからの脱サラで事業を始める場合、具体的な事業計画や自己資金の準備が必要です。
自己資金を増やすか、しっかりとした事業計画を持って金融機関に相談することで、融資のチャンスを高めましょう。
信用金庫や信用組合、農協、漁協など地域密着の金融機関にも相談する
地元の金融機関は、店舗兼住宅のローンを組む際の良い選択肢となり得ます。
地域に密着している金融機関は、地元の事業者や住民との関係を大切にしているため、柔軟な対応が期待できるからです。
例えば、信用金庫は、『地域の方々が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人です。利益第一主義ではなく、会員すなわち地域社会の利益が優先されます。(一般社団法人全国信用金庫協会|信用金庫とは)』、と謳っている頼れる存在です。
小規模な事業者や店舗兼住宅を計画している人にとって、地元の金融機関が親身にサポートしてくれる可能性が高いです。
信用金庫や信用組合、農協、漁協などは、特定の地域や業種を中心にサービスを提供しているので、これらの金融機関に相談することで、店舗部分を含むローンの組み方や条件について具体的なアドバイスを受けることができるかもしれません。
融資だけでなく、長期的なビジネス関係を築くことを目指して、地元の金融機関との関係を深めることがおすすめです。
失敗しないために資金計画が必要
資金計画は、店舗付き住宅の検討時に最も重要なステップです。
失敗のリスクを下げるためには、資金計画の正確な策定が不可欠です。具体的な数字や将来的な予測などをしっかりと考慮に入れ、現実的な計画を策定することで、将来的な金銭的なトラブルや計画達成の障害を避けることができます。店舗付き住宅を建ててから後悔する、という状態を避けるためにも、面倒に思えるかもしれませんが、しっかりと計画を立てることが必要です。慎重に、かつ具体的に考えることで、快適な生活と成功する店舗運営の両立が可能となります。
まとめ
店舗付き住宅を購入する際には、通常の家を購入する場合よりも多くの項目を検討する必要があります。
特に、店舗付き住宅は、店舗部分を「どう使いたいか?」によって利用できるローンの種類等が変わります。
店舗部分をご自身のビジネスに使いたい場合は、建物全体を住宅ローンで組める可能性があります。逆に、店舗部分を他人に貸し出す場合は、事業ローンの検討が必要になりますが、上手に賃貸経営できれば、家賃収入が住宅部分のローンを返済してくれるかもしれません。
ご自身の目的や置かれている状況によって最適なプランは異なります。
須藤 雅
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP、証券外務員Ⅱ種
自治体や中小企業向けに開催されるセミナーの講師も務める。幅広い知識と経験を活かし、若手層から子育て世代、シニア世代と各世代への相談業務を得意とする。
メッセージ
お客様にとって最適でイメージができるライフプランを作成し、具体的な未来を見据えてより良いプランを一緒に考えていきましょう。 いろんな悩みについて、お気軽にご相談ください。